◎淡々と生きだんだんと利己主義者 椙元紋太
◎ほんとうの僕ワイシャツを着たこども 岩井三窓
◎孝行は真似でもやはり金が要り 川上三太郎
◎何だ何だと大きな月が昇りくる 時実新子
◎れんげ菜の花この世の旅もあと少し 時実新子
◎国難に先立ち生活難が来る 井上剣花坊
◎ちと金が出来てマルクス止めにする 井上剣花坊
◎悲しみの家焚きたての昼を食べ 竹内紫錆
◎院長があかんいうてる独逸語で 須崎豆秋
◎自殺せぬ程度に叱るむずかしさ 萬濃修
◎鷹生んでみても余生は二人きり 梅原憲祐
◎死なれたら困る女房をまた怒鳴り 伊藤為雄
◎命まで賭けた女てこれかいな 松江梅里
◎だれよりも君を愛して倦怠期 岡田千夜
◎不細工な妻に子供はようなつき 後藤梅志
◎ネクタイを上手に締める猿を飼う 森中恵美子
◎亡母(はは)の闇この世は雨が降っています 橘高薫
◎鉄道唱歌全部唄えて呆けている 如水
◎もう六十まだ六十と紅を引く 柳原静香
◎美しく老いるに矢張り金が要り 小林愛穂
◎勲章の欲しい七歳七十歳 橘高薫風
◎被爆者同士の会話 和田たかみ
下敷きば見殺し骨ば拾うたと
生まれたばってん小頭症で死んでしもた
引き吊った痕ばい貰い手がなかと
あん時のガラスびっこは治らんけん
放射能害とカルテに書いてなか
やられ損ヒバクシャエンゴまあーだげな
どげんもんか煮え湯かぶればわかるじゃろ
◎陽は昇りにんげんいくさばかりする 清水去鳥
◎男皆阿呆に見えて売れ残り 山川阿茶
◎寒菊の忍耐という汚ならし 時実新子
◎妻がいて子がいて金がないばかり 峠 風太
◎あんた何する唇が寄って来る 田中南都
◎かしこい事をすぐに言いたくなる阿呆 亀山恭太
◎人の世や嗚呼にはじまる広辞苑 橘高薫風
◎すこし明るいのは病人が死んだから 定金冬二
◎妻が死んだ男さらさら興味なし 時実新子
◎忍耐の過去小走の癖がつき 月原宵明
◎こんにちわさよならを美しくいう少女 岸本吟一